スモールイズビューティフルと原子力

昔々流行ったこともある経済学者エルンスト・フリードリヒ・シューマッハーの『スモール・イズ・ビューティフル』は、1973年に英国で出版された著作。
とくに第二部第四章「原子力-救いか呪いか」を、(今一度)ぜひお薦めします。
E・Fシューマッハー著、スモール イズ ビューティフル 小島慶三・酒井懋訳、講談社、1986 p.176~

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もう少し引用を...。

である。核分裂の結果、電離放射能が環境汚染のきわめて重大な原因となり、人類の生存を脅かすことになった。一般の人たちが原子爆弾のほうに注意を奪われるのはうなずけるが、それが将来二度と使われないという希望はまだ持てる。ところが、いわゆる原子力の平和利用が人類に及ぼす危険のほうが、はるかに大きいかもしれないのである。今日の経済性最優先のこれ以上明白な例はあるまい。石炭か石油を使う従来型の発電所を建設するか、それとも原子力発電所を作るかの選択は経済的根拠にもとづいて行なわれており、石炭産業を性急に縮小すれば起こってくる「社会的悪影響」は、たぶんほんの申しわけ程度にしか考慮されていない。核分裂というものが、人間の生命にとって想像を絶する類例のない特殊な危険だということが、まったく考慮されておらず、口の端にのぼったことすらないのである。・・・
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新しい「次元」の危険のもう一つの意味は、今日人類には放射性物質を造る力があるのだが ― 現にまた造ってもいる ― いったん造ったが最後、その放射能を減らす手だてがまったくないということである。

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それにしても、原子炉から出る大量の放射性廃棄物の安全な捨て場所とは、いったいどこであろうか。地球上に安全だといえる場所はない。・・・
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 いちばん大きい廃棄物といえば、いうまでもなく、耐用期間の過ぎた原子炉である。原子炉を使える機関が二十年か二十五年か、ないしは三十年かといった些末の経済問題については議論がやかましいが、人間にとっての死活の重要性をもつ問題はだれも論じていない。その問題とは、原子炉が壊すことも動かすこともできず、そのまま、たぶん何百年もの間、あるいは何千年もの間放置しておかなければならないこと、そしてこれは音もなく空気と水と土壌の中に放射能を洩らし続け、あらゆる生物に脅威を与えるということである。どんどんと増えていく、このような悪魔の工場の数と場所を、人は考えてもみない。もちろんのこと、地震は起こらないものと想定されており、戦争も内乱も、今日アメリカの諸都市に蔓延している騒擾も、予想の中には入っていない。・・・
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 有力な遺伝学者たちは、異変発生率が上昇するのを避けるよう全力を尽くすべきだと警告している。・・・戦略問題、政治問題を扱っている有力な研究者たちは、・・・プルトニウムの生産能力が拡散すれば、原爆の拡散を防ぐ希望は永久に断たれてしまう、と警告している。
 にもかかわらず、大規模な「第二次原子力計画」にただちに着手すべきか、それとも、・・・未知の危険のないことだけはたしかな、在来の燃料にもうしばらく頼り続けるほうが得策ではないかという論争では、こうした傾聴すべき意見はなんの役割も果たしていない。・・・人類の未来に死活の影響があるというのに、利益がすぐに出るかどうかという点だけをめぐって議論が行なわれている。・・・石炭や石油で空気や水を汚す害悪を軽視しようというのではけっしてないが、「次元の相違」を認識すべきである。放射能汚染は、そのひどさの次元においてこれまでのどんな汚染とも比較にならない。疑問はこれだけではない。空気が放射性粒子を帯びてくるとなると、きれいな空気を求めても無意味ではあるまいか。空気の汚染が避けられたとしても、土壌と水が毒されてしまえば、それも無意味ではないだろうか。
 経済学者も次のような疑問を抱くのではあるまいか。人類にとってかけがえのない地球が子孫を不具にするかもしれないような物質で汚染されているのに、経済的進歩、高い生活水準について語ることにいったい意味があるのだろうか。
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いかに経済がそれで繁栄するからといって、「安全性」を確保する方法もわからず、何千年、何万年の間、ありとあらゆる生物に測り知れぬ危険をもたらすような、毒性の強い物質を大量にためこんでよいというものではない。そんなことをするのは、生命そのものに対する冒瀆であり、その罪は、かつて人間のおかしたどんな罪よりも数段重い。文明がそのような罪の上に成りたつと考えるのは、倫理的にも精神的にも、また形而上学的にいっても、化け物じみている。・・・

(引用者のコメント) 
あれから40年も経っているのに、原子力技術のほうの進歩は、どうもさっぱり。それにくらべると、今は、原子力か石炭・石油か、の二者択一ではなく、ほかに色々な選択肢がある。こっちのほうは、めまぐるしい進歩を果たしてるじゃない。
by addionuke | 2012-08-19 03:52 | お奨め図書
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